障がい者就労施設等からの優先調達目標1千万円

地域で暮らす障がい者を支える仕組み
障がいのある方々が地域で自立した暮らしを続けていくためには、安定した収入を得られる就労の機会を確保することが不可欠です。その実現には、障がい者の雇用を支援する制度の整備に加えて、福祉的就労の場となっている障がい者就労施設が、継続的に仕事を受けられる環境を整えることが大切です。
こうした背景から、国は平成25年4月に「障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律(障害者優先調達推進法)」を施行。現在では全国すべての自治体が毎年度、障がい者就労施設等からの物品や役務(サービス)調達に関する方針を策定し、それに基づいた調達を行い、その実績を公表しています。
日出町の現状は?― 県内で最も少ない調達実績(令和5年度)
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それでは、日出町はこの「障がい者優先調達」に、これまでどのように取り組んできたのでしょうか?その実態を明らかにするため、独自に調査を行いました。
表は、令和5年度における大分県内18市町村それぞれの障がい者就労施設からの物品・役務(サービス)の調達実績をまとめたものです。県全体の調達総額は概算で約2億8480万円。この合計金額を各自治体の人口で按分し、それを「目標額」と仮定して、各市町の実際の調達額を比較しています。すると、日出町の目標額700万円に対する実績は114万3千円(内訳:草刈り30万円、印刷60万9千円、花苗23万4千円)にとどまり、県内17市町の中で最も低い金額であることが分かりました。
さらに、日出町より人口の少ない杵築市・国東市・豊後高田市・竹田市・津久見市・九重町といった市町村でも、日出町より高い調達額を記録しており、大きく水をあけられている状況です。一方、大分市・佐伯市・豊後高田市・津久見市・九重町では、目標額を大幅に超えており、これら市町は、国の法の趣旨を真摯に受け止め、障がい者支援に高い意識を持って、全庁的に取り組んでいる様子が数字からも明らかです。
つまり、単なる予算処理ではなく、「障がいのある方が地域で生きていくことを支える」という視点で、行政が責任をもって施策に取り組んでいることがうかがえます。
なぜ、日出町はこれほど他市町に遅れをとっているのか?

※法では市町村の取り組みをしっかり定めています。
障がい者優先調達推進法第9条
第1項 市町村は、毎年度、当該年度の予算及び事務又は事業の予定等を勘案して、障がい者就労施設からの物品等の調達の推進を図るための方針を作成しなければならない。
第2項 第1項の方針は、市町村にあっては障がい者就労施設における障がい者の就労又は就業の実態に応じて、供給する物品等及びその目標を定めるもととする。
第3項 第1項で方針を作成したときは、遅滞なく公表しなければならない。
第4項 第1項の方針に基づき、当該年度の物品の調達を行う者とする。
障がい者就労施設へのヒアリング
なぜ日出町では、ここまで障がい者施設への優先調達が進んでいないのか。その背景を探るため、町内のB型事業所(障がい者就労施設)1か所に電話でヒアリングを行い、現場の声を伺いました。
Q1:これまで、日出町から随意契約で物品やサービスの発注を受けたことはありますか?
A1:ありません。
Q2:町から「こういった物品やサービスを提供できますか」といった照会や打診はありましたか?
A2:一度もありません。
Q3:大分県の「就労継続支援事業所躍進補助金」を受けたことはありますか?
A3:ありません。
Q4:事前に発注される物品やサービスの内容・金額が分かっていれば、受注は可能ですか? また、体制を整える意欲はありますか?
A4:事前に情報があれば対応可能だと思います。体制整備の意欲はあります。
当初は、町内にある12の障がい者就労施設すべてに聞き取り調査を行う予定でした。しかし、令和7年6月定例会で本件を一般質問として取り上げることを通告したことを受けて、担当課が全事業所を対象とした実態調査を開始しました。(おそらく、障がい者優先調達推進法の施行以来、町として初の全数調査と思われますが、このような前向きな動きが出てきたこと自体は歓迎すべきことです)そのため、今回の私自身の聞き取りは1事業所にとどまりましたが、この1件のヒアリングからも、町が優先調達の取り組みに積極的に関与してこなかった現実がはっきりと見えてきました。
特に印象的だったのは、「これまで特に町から働きかけはなかった」という現場の声です。この10年間、優先調達の意識は次第に希薄となり、毎年、町の一部の課が、同じ事業所に、ほぼ同じ内容・同じ金額の物品やサービスを慣例的に発注していたと考えられます。
持続可能な障がい者就労施設の運営と給料・工賃向上のために
繰り返しになりますが、障がい者就労施設の安定した運営と、そこで働く利用者の給料・工賃(収入)を向上させるには、行政による安定的かつ積極的な調達が不可欠です。実際、先に述べたように、大分市・佐伯市・豊後高田市・津久見市・九重町といった自治体では、年度ごとの調達目標額を具体的に数値で定めた「調達方針」を策定し、その達成に向けて庁内全体で取り組んでいます。ところが、日出町だけが、調達目標額を数値として明示していません。
令和6年度に公表されている「日出町障がい者就労施設等優先調達方針」では、調達目標に関して「当該年度の障がい者就労施設等からの物品等の調達目標については、過去の実績にとらわれず、供給可能なものについては積極的に発注する」と明記されています。しかしながら、実際には、こうした情報収集や庁内連携は行われていないのが現状です。
今、町として問われていることは、調達目標額を定め、全庁的に協力しながら業務を発注していくという仕組みづくりであり、すでに多くの自治体が実践している基本的な取り組みです。日出町もまた、そうした仕組みを他市町の先行事例から学び、取り入れることは十分可能です。障がいのある人もない人も、同じ地域で支え合いながら生きていける町を目指すため、「できることから始める」こと、そして、「数字としての目標を持ち、それを全庁で共有すること」が重要です。
令和7年6月定例会一般質問で5つの提言

今回の調査で明らかになったように、日出町がこれまで障がい者就労施設等からの物品・役務の優先調達に積極的に取り組んでこなかったことは明白です。そこで私は、令和7年6月定例会の一般質問において、この状況を改善し、持続可能な調達体制を確立するために、次の5つの具体的提言を行いました。
【提言①】町として、障がい者就労施設等から調達する物品・役務について、年間「目標額700万円」を明示すること。
調達における数値目標は、取り組みの水準と成果を客観的に測るために不可欠です。単なる「積極的に発注する」という抽象的な方針では、行動につながりません。
【提言②】全庁的な体制づくりとして、新たに「日出町障がい者優先調達推進会議」を設置すること。
この会議では、年度ごとの調達方針の策定、実績の評価、課題の共有、今後の施策の方向性などについて、庁内を横断的に協議できるようにします。
【提言③】各課は、前年実績を上回るよう、発注可能な業務については積極的に優先調達を行うこと。
日常的に発注されている清掃、印刷、封入作業、草刈り、花苗の管理など、すでに多くのB型事業所が対応可能な業務が数多くあります。まずは「できること」から始めることが重要です。
【提言④】随意契約を適切に活用し、予算執行に配慮しながら、調達の選択肢として障がい者施設を積極的に活用すること。
法的にも認められている随意契約の仕組みを適切に運用し、適切な価格で柔軟かつ安定的な発注が可能になります。
【提言⑤】担当課は、障がい者就労施設に対して適切な情報提供を行い、調達の拡大に向けて施設の受注能力の向上や品目拡大の支援を行うこと。
発注側が必要とする業務内容や品質の基準を明確に伝えることで、施設側もそれに応じた体制整備を進めやすくなります。調達を「一方通行」にせず、双方の対話と協力のもとで進めていくことがカギです。