
「環境アセスメント」と
風力発電計画
― 日出町の意見書と今後の対応 ―
計画の概要
日出町と杵築市山香町にまたがる山間部で、2030年頃の運転開始を目指す大規模風力発電事業が計画されています。
計画区域は日出町南畑から杵築市山香町久木野尾にかけて約4キロで、町有地も一部含まれます。
計画では、ローター直径約120〜158m・高さ約150〜180m級の大型風車を最大9基設置し、総出力は約6万1,000kWを見込んでいます。
「環境アセスメント制度」とは
大規模な開発事業では、自然や生活環境にどのような影響があるかを事前に調べ、予測・評価し、必要な対策を検討する「環境影響評価(環境アセスメント)」が義務付けられています。
この手続きは国や県の条例に基づき、次のような段階を経て行われます。
アセスメントの主な流れ
❶ 配慮書(今回の事業では省略)
事業の位置や規模などを示し、環境への配慮方針を検討する段階。
本来は計画初期に住民意見を広く聞く重要な手続きですが、今回の風力発電事業では法律上の要件により省略されています。
❷ 方法書(現在この段階)
どの項目をどのように調査・予測・評価するかを示す文書です。
県庁・日出町役場・杵築市役所などで公告・縦覧(7月23日~9月5日)が行われ、8月23日には「方法書」説明会が実施されています。この間、住民や自治体は意見を提出できます。
日出町は11月5日付で県に意見書を提出しました。
🔹このあと、事業者は提出された意見を整理し、**「意見概要書」**として県・関係市町・経済産業省に提出します。
意見概要書は、住民や自治体の意見に対して「どのように考え、今後どう対応するか」をまとめたもので、方法書そのものを修正する手続きではありません。
ただし、この意見概要書の内容は、次の段階で作成される「準備書」に反映される重要な資料となります。
❸ 準備書・評価書(今後の段階)
方法書に基づいて現地調査を行い、環境への影響を予測・評価してまとめます。
ここで、前段階での「意見概要書」を踏まえて、調査方法や評価内容を見直すことができます。
また、住民意見を再度募集し、最終的に「環境影響評価書(評価書)」が完成します。
❹ 許認可・事業着手
最終評価書を踏まえ、県や国が許認可を判断します。
行政手続き上、環境アセスメントに不備がなければ認可される場合も多く、地域合意形成のあり方が改めて問われています。
日出町の意見書(概要)
日出町は、地域の環境と住民生活を守る立場から、次のような意見を県に提出しました。
(1)地域との合意形成の重要性
- 設置予定地から約500m以内に住宅があり、周辺にはトラピスト修道院、大規模茶畑、町有地も含まれます。
- 町民からは、低周波音、災害リスク、生態系や水源への影響などへの懸念が寄せられています。
- 町は、事業者に対し、住民や関係自治体と誠実に協議し、十分な合意形成を行うことを求めています。
(2)環境影響評価の実施にあたっての要請
- 最新の知見や手法を用い、大分県環境基本計画に沿って調査を実施すること。
- 異常気象や豪雨を踏まえ、土砂流出・法面崩壊・水脈への影響などを多面的に調査すること。
- 工事計画・設計を明確にし、地盤調査や安定対策を十分に検討すること。
- 環境影響評価の内容はわかりやすい図や平易な説明で公開し、縦覧後もインターネットで閲覧できるようにすること。
- 事業後に問題が発生した場合の対応や再調整の方法を明確にすること。
(3)個別の環境項目に関する意見
▶ 騒音・低周波音
- 周辺は静かな地域のため、通常基準ではなく環境省の「風力発電騒音指針」に基づく調査を求めました。
- 測定地点は住民・自治体と協議して選定し、最新の知見で評価を実施するよう求めています。
▶ 水環境
- 下流では生活・農業用水が利用されており、水質や水量への影響回避を最優先にすること。
- 濁水・土砂流出防止策、薬剤・燃料管理、事故時の対応計画を徹底すること。
- 水道施設(配水池・取水施設など)への影響調査と損傷防止策を講じること。
- 関係自治体と緊密に情報共有・協議する体制を整えること。
▶ 景観
- 主要な眺望点や道路などからの見え方を調査し、フォトモンタージュ等で住民に説明すること。
- 他の風力発電施設との一体的な景観評価を行うよう求めています。
▶ 動植物・生態系
- シカ・イノシシなどによる鳥獣被害の増加を想定した調査を実施すること。
- 約50haの県行造林(国有林)を含むため、伐採による水源涵養機能の低下に注意し、伐採計画を事前協議すること。
▶ 文化財
- 包蔵地には該当しませんが、近辺に遺跡が点在。
- 発見時は速やかに報告し、文化財保護の観点から対応することを求めています。
(4)その他(安全・管理・手続き等)
- 環境影響評価書類をインターネットで継続公開すること。
- 事業終了後の撤去計画を明確にすること。
- 事業譲渡の際には、関係自治体・住民への説明と合意形成を行うこと。
- 道路損傷・粉じん防止策を関係機関と協議すること。
- 活断層やがけ崩れ危険箇所を確認し、災害対策を徹底すること。
- 町民向けの説明会を必ず実施すること。
🗣 今後の町の対応
日出町としては、地域の環境と住民生活を守る立場から、県や事業者と協議を重ねながら慎重に対応していく方針です。
現時点では、最終的な賛否や方向性は示していませんが、町民の皆さんへの情報公開と説明責任を果たしていく考えです。
🏛 12月定例会で執行部を質す
私は、12月定例会において、制度上の手続きを確認しながら、中立的な立場で問題点を整理したうえ、町の対応方針を質す考えです。
・環境アセスメント手続きのこれまでの経過と町の関与の状況
・住民意見の聴取・反映のあり方
・町としての説明責任と情報公開の方針
・今後の協議の見通しと地域合意形成への対応
💬 まとめ
日出町の意見書は「賛成」や「反対」ではなく、
**「町民の安全と環境保全を最優先に、慎重な調査と丁寧な説明を求める」**
内容です。
今後の環境アセスメントの進行にあわせ、議会として状況を注視しながら対応していきます。
